スプレー式癒着防止材 | 開発の背景と目的 |
外科手術において、切開により臓器を含む組織が空気に露出するが、この際、これらの組織が乾燥,酸化され、その結果損傷を受ける事があることが認知されている。手術中の臓器を含む組織の乾燥,酸化は、組織の損傷につながり、手術後に組織の癒着,治癒の遅延等の問題が発生する原因と考えられている。臓器組織の癒着は手術後に発生する合併症の典型である。また、腹腔内手術後の臓器癒着は、イレウスや疼痛、不妊などの合併症の原因となり、時には次回手術が非常に困難になるなどの問題を起こす可能性がある。その発生頻度も腹部手術では55%以上であり、患者にとって慢性的な腹部痛、腸閉塞、不妊症など深刻な病状が持続することになる。
現在、手術後の組織癒着,治癒の遅延を避けるための処置の例として、外科手術中に、生理食塩液に浸漬したガーゼで臓器等の組織を被覆する処置が行われている。しかし、乾燥・酸化ストレスを受け得る露出環境から保護するよう、十分な被覆状態に保つことが困難であり、また、ガーゼが手術操作の障害になるという問題があった。癒着防止効果や治癒遅延防止効果を有する物質で、水溶性でかつ容易に目的部を被覆できるものが強く求められていた。
そこで、「トレハロース*」を有効成分とする新規な手術後の組織癒着軽減・防止する液材を開発した。
*「トレハロース」は、2分子のグルコースがα,α-1,1結合した非還元性の二糖(C12H22O11・2H2O)であり、1832年に初めてライ麦から単離された公知の物質である。自然界では動植物、微生物にわたって広く遊離の状態で存在している。パン酵母やビール酵母等の酵母類にも多く含まれ、食物中にも散見される糖類である。また種々の生命体に関わる糖質であり、クマムシ、ワムシ等の昆虫類、イワヒバ等の植物が砂漠等の厳しい環境の中で生きつづけられるのは、「トレハロース」が生体内に存在するためであると言われている。 |
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